ディスクブレーキの解禁に伴いワイヤーが完全に内装されている自転車が増えてきた
「写真サイクリストhttps://cyclist.sanspo.com/498418/4sm_9431」ほしい。誰か買って。
でもそういう自転車は大抵高くて、お腹の出たおじさん達しか乗れないのが現状(クソー!そのお腹をなんとかしろ!)
僕ら貧乏レーサーはワイヤーが出たフレームで我慢するしかないのか?
いや、エアロなワイヤーがあれば良いではないか!
ということで、アウターワイヤーのエアロ化計画スタート!
こんな記事に需要があるかは知らんが、今後挫折しない限り進捗を報告したいと思う
(あわよくば製品化して売れたらなんて思ったり。)
こんな長いの読んでられねーっていう人のために
この記事のまとめ↓↓
アウターワイヤーは時速40kmで走ると3.2wの抵抗である。エアロなカバーをかけて抵抗を減らしたい!
いろんな形を試した→レンズ型の断面形状がいいみたい!
②に続く...
【方針】
アウターワイヤーは、握力などから発生する引張力に対しての圧縮応力で座屈しないように、軸方向に対するヤング率が非常に高く作られている(※注1)ので、これを素人が作るのは不可能。よって今回は既存のアウターワイヤーにカバーを被せることで、その形状を変化させ、より空気抵抗を減らすことを目標とする。簡単にいうと、アウターワイヤーにエアロなカバーをかけるということである。カバーの素材は成形のしやすさと離型性の高さからシリコンを使おうと思う。(←現時点ではまだ使ったことない)
(技術オタク用 注1:プラスチックの内壁にケーブルをねじりながら巻き付け、その上からプラスチック(またはゴム)でラジアル方向に押さえつけることで、長さ方向の圧縮応力をラジアル方向に変換し、それを押えのプラスチックで受け止める構造に見える。)
【普通のワイヤーの空気抵抗】
とりあえず、生のワイヤーがどれくらいの空気抵抗を発生するしているのかわからないのでシミュレーションしてみた。
使ったソフトはFlow Square +(以降FSP)。東工大機械系の先生が作った有限要素法のソフト。
まずはワイヤーのモデルをCADを使って作り、メッシュ化する。
そんで、そいつをFSPに突っ込み、時速40キロのスピードで前から風を当てる条件でシミュレーションする。
すると10cmのブレーキワイヤー(Φ5)1本に進行方向に7.7*e-2Nの抵抗が発生していることがわかった。これは約0.8Wの損失である。シフトケーブル*2とブレーキケーブル*2では計4本のワイヤーが出ているから、3.2Wの抵抗である(実際にはシフトワイヤーは20%細く、また後方のフレームやワイヤー同士の相互干渉によって抵抗は減る)。
なるほど、ワイヤーを内装したくなるはずだ。
【なんとなーくのカムテール】
んじゃ、今話題のカムテール構造ならどうだろうか?(カムテール構造とは、流線型の後方を切り落とした形であり、空気抵抗は流線型とほぼ変わらないが、より横風に強い形と言われている。)
いざシミュレーション!
なんか抵抗値大きくね?
単純なワイヤーより抵抗が大きい。
やはり、テキトーに翼断面の後ろを切り離しちゃったためか?
空気抵抗は
空気抵抗=(風の当たる前面の圧力×面積)ー(後ろの面の圧力×面積)
で表せる。よって後ろの面の圧力が高くないと、前からの圧力で押し戻されるだけで抵抗が大きくなる。
(ちなみに乱流のない完全流体の場合、円柱でも空気抵抗は0である(ダランベールのパラドックス))
このカムテールは後ろの切り方が良くなかったんだろう。
【流線型】
ならば後ろを切り離さなければどうだ!
。。。。。。なんかダメじゃん
ワイヤーだけとあまり変わらないし...
長さが足りない?
まさかの先端は尖っている方がいい?
【長めの流線型】
なんということだ!!!!
長くすると抵抗が減る!
抵抗値が半減した!
しかも前後逆にして先端を尖らせた右の方が抵抗が小さい!
.....でも何故だ?
ググると以下の論文が見つかった
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kikaib1979/76/768/76_KJ00006538223/_pdf
http://www2.nagare.or.jp/cfd/cfd29/data/cfd29_web_publications/paper_web/C06-4.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kikaib/77/776/77_776_1111/_pdf
流体力学にはレイノルズ数(Re)という超大切な無次元数がある。
簡単に説明すると、その物体は流体のネバネバに対してどれくらいデカくて速いか、を表している。
Re=1.0e5を超えると十分に物体はデカく、速く動いているため、空気のネバネバ(粘性)を無視できるようになってくる。
一般的には自転車はパーツごとに1.0e4〜1.0e5程度のオーダーなので、ネバネバの中と慣性の世界の中間を走っている状態な訳である。
より物がデカくなるとReは上がってネバネバによる摩擦の空気抵抗が減らせるので、例えばディスクホイールなどは、リムハイトを限界まで上げることでReを最大まで大きくしている、という解釈もできるのだ。(もちろんReが大きいと乱流の抵抗が増えるので、乱流の制御も大切である。)
ところで、スポークや、今回のアウターワイヤーは高々5mm程度の大きさである。時速40kmで走るとRe=3.6e4 まさにネバネバ状態である。
上の文献では、この低レイノルズ域において、先端も尖ったレンズ型の翼の可能性を示唆している!
そうと決まればシミュレーションだ!
【レンズ翼】
幅が広ければ広いほど抵抗は減るけど、広すぎても「ワイヤー」じゃなくなっちゃうから、幅は30mmにした。
空気抵抗の65%の削減に成功!
これは2wの削減になる!
ちなみに、軸方向に斜めに風が当たった状態(つまり実質的に翼が伸びた状態)だと、さらに空気抵抗が削減できる。
これで制作するカバーの形状は決まった。
②に続く....